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祈りの山project

週末の百名山の山頂はじつに賑やかだ。絶景と達成感とに酔いしれるハイカーたちの笑顔で溢れている。

そんな光景を眺めながら、人が入らなくなった山の未来について考える。日本各地には、道が荒み、森林が痩せ、文化もろとも廃れつつある山がたくさんあるのだ。遥か昔から人々の祈り・暮らしとともに身近にあった山や、未来に伝えたい修験の文化などは、メジャーな山やレジャー登山の陰に隠れてしまっている。

「百の頂に、百の喜びあり」

山岳人・深田久弥のこの言葉を借りれば、山そのものに魅力が百態あり、ハイカーが感じる魅力もまた、百様だ。

そこで、名が立った山だけでなく、元々祈りが根付いていた山、地元の人に大切にされた山にフォーカスし、自然と文化を、身の回りにある山を見直す機会を、このプロジェクトでつくりたい

ピーク(頂)を目指すだけではない登山の在り方。いわば「一の山に、百の喜び・祈りあり」を体現していくプロジェクトだ。

ナビゲーターのご紹介

低山トラベラー 大内征

 

【コメント】
幼少期の“釣り”に、ぼくの登山の原体験があります。ひとたび渓を分け入った深山には、伝説の巨大魚タキタロウがいるものだと、釣り少年だったぼくはずっと信じていたのです。いまでは竿と魚籠を持って山中に魚影を追うことはなくなりましたが、その代わりに、過去から未来に伝え繋いでいきたいタキタロウのような存在や物語を、山に探究するようになりました。人生とは面白いものです。

山高きがゆえに貴からず。その高低にかかわらず、ぼくらの祖先は身近な山を仰ぎ見ては手を合わせ、祈ってきました。修行と登拝を通して自然そのものを感じる山嶽への信仰もあれば、日々の営みの中にあるささやかな願いや感謝もまたあり。それは日本各地どこにでも見られた光景ですが、地域や山によって違いがあり、嶽によっては薄れつつあります。そうしたことに思いを馳せ、山を地域を見直し、楽しむことができたら……現代の登山がもっと魅力あるものにアップデートされると、ぼくは感じています。

人里に霊山の知恵をつなぐ山伏がそうであるように、低山里山に訪いを重ねる中で感じたこと、見聞きしたことを、この祈りの山プロジェクトで“やわこく”伝えたい。それに触れてピンとくる人が少しでもいれば、嬉しく思います。

【プロフィール】
地域の歴史や伝承を辿りながら山を歩き、日本のローカルの魅力を探究。ピークハントにとらわれない新しい登山スタイルを模索し、足で覚えた山旅の愉しみ方を言葉と写真と小話で伝えている。

NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー、著書に『低山トラベル』『とっておき!低山トラベル』(二見書房)など。2017年は山岳雑誌・岳人で「歴史の山旅」を連載、NHK Eテレ「趣味どきっ! 大人の歩き旅」およびBS日テレ「低山トラベラー」で山の案内人をつとめ、好評を博した。

雑誌寄稿やメディア出演の他、登山や暮らしをテーマにした各地の取り組みに参画するなど、これまでにない「山×歴史×ソーシャル」の活動領域を切り拓いている。宮城県仙台市出身。

 

山伏 坂本大三郎

 

【コメント】
僕が山の世界に惹かれたのは、山伏が日本文化の中で芸術や芸能といった文化の発生や発展と関わりがあると知ってからでした。山伏は古くはヒジリと呼ばれ、「聖」ではなく「日知り」の意味があり、「日」は天体をあらわす言葉で、天体の運行を知り、暦を作成する存在だったのです。暦によって運営される共同体の事業には必ずマツリがともない、ヒジリはマツリを執り行う者でもありました。山伏・ヒジリは日本文化の長い時間の中で、「自然」と「人」を結びつけ、そこから生まれた様々な文化の担い手となっていったのです。
山伏・ヒジリが活動した古の山々には、地域によってかなり性格が異なる文化が根付いています。その複雑に交差する文化をじっくりみてゆくことで、自分たちがどんな存在だったのか、僕たちにとって山はどんな存在だったのかを紐解いていきたいと思います。

【プロフィール】
東北、出羽三山を拠点に活動する山伏。春には山菜を採り、夏には山に籠り、秋には各地の祭りをたずね、冬は雪に埋もれて暮らす。美術作家として「山形ビエンナーレ」、「瀬戸内国際芸術祭」等に参加。著書に『山伏と僕(リトルモア)』、『山伏ノート』。

 

登拝家 中村真

 

【コメント】
神社に心を奪われたその先に山との出会いがあった。しかしそれは山の頂を極めるものでも、景観を楽しむことでもなく、古来の日本人が当たり前に感じていた、自然の中に神や仏を感じ、畏れ敬い感謝の対象として捉えてきた御山との出会いであった。今でも山を登るときには「登山」ではなく、神仏に出会うために登る「登拝」を第一としている。その視点から日本各所に存在する神仏おわす山々を取材し紹介していきたいと思っている。対象となる山の周辺で繰り広げられ積み重ねられてきた様々な歴史と、この国が歩んできた精神世界の移り変わりなど、暮らしの中にある信仰を紐解くことで、それぞれの土地の魅力を見出すお手伝いが出来れば幸いである。

個人的な信仰は奈良県大峰山脈での修験講に属し、山に足を踏み入れ、自己との対話を未来へのつながりとして捉えている。

【プロフィール】
イマジン株式会社代表 / 尾道自由大学校長 / 自由大学神社学教授。神社や暮らしの中にある信仰を独自に研究する神社愛好家。広告代理店・音楽レーベルを経て2005年にインディペンデント・パブリッシャーとして2012年まで雑誌『ecocolo』や書籍『JINJABOOK』などを発行する出版社株式会社エスプレの代表を務める。同年、プランニング会社であるイマジン株式会社設立。同時に広島県尾道市の街興しに参画し、尾道自由大学を創立し校長を務める。その他、日本人冒険家のマネージメント団体『人力チャレンジ応援部』や、全国の農家と都市部の若者を繋げるインターネット上の農業大学『TheCAMPus』の立ち上げにも参加。全国各地の地域プロジェクトと連動し多拠点での暮らしを実行中。神社や日本人の心の在り方を模索する中で山と出会い、神や仏と出会うために山に登る『登拝』をライフワークとし、各地で『献笛』をおこなっている。