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常陸國風土記に残る、神道以前の自然崇拝

古事記、日本書紀に並びたつ国内最古の歴史書として名高い常陸國風土記というものをご存じだろうか?

風土記とは各地勢力が我が土地の有する歴史を記した歴史書であるが、常陸國とはおもに現在の茨城県全域を差すかつての古称。この風土記、713年から721年にかけて編纂されたと伝わっている。古事記が712年、日本書紀が720年の編纂であることを考えると、記紀に並び立つ歴史書というのも頷ける。ここに「浄らかな山かびれの高峰(御岩山の古称)に天津神静まる」と書かれているのが、麓に御岩神社を抱く「かびれの御山」のことだ。


現在は御岩山と言った方がご存知の方も多いのではないか。御岩神社はそのものその裏山である「かびれの山(御岩山)」をご神体とし、その境内に天津神(天孫降臨の神々の系譜)を主に八百万の様々な神を祀る。特筆したいのは主祭神となっている原初の神である国常立尊である。古事記と日本書紀はそれぞれに似て非なる日本創生神話を記すが、その日本書紀における創生神話の原初の神こそが国常立尊である。日本全国、決してこの原初の神を主に祀る神社は多くないが、現在の神道が体系化されるよりもずっと前に発生していたであろう自然崇拝・・・特に山岳信仰の聖地は必ずと言ってよいほど国常立尊に守られている。加えて「かびれの山」には縄文晩期の祭祀遺跡なども多くみられ、神話が体系化される以前より、この地に暮らす人々の信仰の対象であったことが伺える。

御岩神社への参道を進み、まずはご神木である三本杉に圧倒されつつ、不動明王が祀られている池で思いを馳せる。神仏習合の最たる仏である不動明王と主祭神国常立尊とくれば古来、この御山に神仏を感じ、修行にはげんだであろう修験の行者たちの姿が目に浮かんでくる。その後、御岩神社での参拝をすまし、本殿裏手よりかびれの山へ続く登拝道にむかう。その山道を5分も歩けば、数百年から千年は息づく老樹巨木が出迎えてくれ、神さびた森厳を極めるうっそうと茂った森の中に身を投じることとなる。


この御山は今では御岩山とも呼ばれるが、かつては葦原山とも天香具山とも呼ばれ、江戸時代においては徳川水戸藩の崇敬篤く修験の山として水戸出羽三山とも称された。江戸末期までは他の霊山同様、神仏習合が色濃く行われ山中及び境内には21の寺社仏閣がおかれ、門前にはいくつもの宿坊があったほどの霊地を形成したという。明治維新後、神仏分離によって神社としての純粋な形を保つために、大日堂、観音堂、念仏堂などは取り払われて、現在の形となった。時代の流れ、信仰の移り変わりを目にしながら歩を進めていくと登拝道のまわりは、目に飛び込んでくるすべてのものが苔むし、幽玄な世界に包まれていることに気が付くだろう。そこかしこの巨木の足元には如来像が今でも残り、山にむかう人々の安全を見守ってくれているようだ。


山に入りほどなくすると、急にそれまでの道が険しい山道に姿を変える。530mの低山だと思って油断することなかれ・・・力強い樹々の根っこや岩場が続く登拝道に注意を払いながら進み、一歩一歩を確かめながら踏みしめていくことこそ登拝の醍醐味と言えるだろう。息が少し切れ始め、山頂に近づくあたりに「かびれ神宮」という御岩神社の奥宮が鎮座する。麓の御岩神社と対比すると、質実剛健というか一切の派手さはなく、どちらかというとピりりと張りつめた空気感に抱かれたお社である。


心と息を落ち着けてゆっくりとご挨拶をすると、その張りつめた空気感がふっとやわらいだ気がしたのは僕の思い込みかもしれないが、所見の印象よりも馴染んだのちの印象はとてもやわらかいものだった。そしてここまでくれば山頂はもう間近であり、最後の急登を残すのみである。磐座群が形づくる「かびれの山」の山頂からの眺望は観る限り山々で覆われ、低山とは思えないほどの絶景が広がっている。古来、この山に神々が降り立った・・・という常陸國風土記に記された由縁を心と体でふんだんに感じ入ることだろう。

今では雑誌やテレビで茨城県のパワースポットとして紹介されて久しい御岩神社とかびれの山には週末ともなると、県内はもとより全国よりその霊験にあやかろうと多くの参拝者が列をなすほどに賑わっている。しかしその参拝者たちのどれほどの人が、その土地やこの御山に伝わる神々の物語に心をよせているのだろう。もしかすると、御岩神社に祀られている神様の存在すら意識してないのかもしれない。それでも古来から「かびれの山」の神様はそこに鎮座してきた。時代や支配者が変わろうと、参拝者の目的が変化しようと「かびれの山」は変わらず、そこに何かを求める人々の心を受け止めてきたに違いない。山中を局所的に見れば1000年単位で光景がかわらない姿を見出すことが出来るのではないかと心が躍る聖の御山。出来ることなら視点を御山に代えさせて頂き、人々の信仰の移り変わりを山の立場で眺めてみたい。そんなことに想いを寄せると、時空を超えたメッセージを受け取ることが出来るのかもしれない。

カビレの山(御岩山)の地図はこちらから
https://yamap.co.jp/map/1674

中村 真

中村 真

イマジン株式会社代表 / 尾道自由大学校長 / 自由大学神社学教授。神社や暮らしの中にある信仰を独自に研究する神社愛好家。広告代理店・音楽レーベルを経て2005年にインディペンデント・パブリッシャーとして2012年まで雑誌『ecocolo』や書籍『JINJABOOK』などを発行する出版社株式会社エスプレの代表を務める。同年、プランニング会社であるイマジン株式会社設立。同時に広島県尾道市の街興しに参画し、尾道自由大学を創立し校長を務める。その他、日本人冒険家のマネージメント団体『人力チャレンジ応援部』や、全国の農家と都市部の若者を繋げるインターネット上の農業大学『TheCAMPus』の立ち上げにも参加。全国各地の地域プロジェクトと連動し多拠点での暮らしを実行中。神社や日本人の心の在り方を模索する中で山と出会い、神や仏と出会うために山に登る『登拝』をライフワークとし、各地で『献笛』をおこなっている。